地震・火災から身を守る(緊急報告) 御嶽山噴火からの教訓

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9月27日に噴火した御嶽山(長野・岐阜県境)では、50人以上の死者が発生し、戦後最大の火山災害となってしまいました。
マンション生活からは縁遠いように思えるこの災害が、私たちの普段の災害対策にもさまざまな教訓を与えてくれているのをご存じでしょうか。
今回は、その代表的なものを緊急報告します。

死因のほとんどは「損傷死」

検視結果によると、ほとんどの人が「損傷死」という判定です。これは、噴石が頭部などを直撃した外傷性のショック死であると考えられます。噴石は大小様々で、中には人体の数倍もあるようなものも確認されており、こうしたものに襲われれば即死してしまうでしょう。
一方、小さなものでも相当な勢いで落下してくるので、衝撃力は凄まじく、人体にかなりの損傷を与えることは容易に分かります。

とっさの行動で助かった例も

助かった人の多くは、近くの山小屋に避難して噴石を避けました。一方、直ちに山小屋に避難できなかった人も様々な方法で身を守ろうとしました。その代表例をご紹介します。

とっさに身を伏せ、背負っていたリュックサックで頭を覆った。幾度となく激しい衝撃を感じた。噴石がリュックサックに当たっているようである。しばらくすると小康状態になったので、山小屋に走った。辿りついてリュックサックを見てみると丈夫な水筒が大きく変形していた。
岩陰に隠れ、屈みこんで丸まった姿勢になり、腕で頭部を覆った。腕や肩に噴石が当たるのが分かったがじっと耐えた。もうだめだと思ったが、友人の励ましでどうにか歩行ができたので、山小屋に避難した。腕は骨折してしまったが頭は無傷で済んだ。

これらの行動で共通するのは、「頭部を守った」ということです。頭部の負傷は致命傷になりかねないばかりか、それまで至らなかったとしても、気を失ったりするとその後の避難行動がとれなくなってしまいます。
いかに頭部の保護が重要であるかを証明した災害でもあるのです。

落下物から身を守るために

噴石から身を守る行動は、都市部で発生する災害にも役立ちます。代表的なものが地震時の落下物でしょう。室内では、不安定な家具類の転倒落下、屋外では割れたガラスや老朽化した外装材の落下などが考えられます。

こうしたとき、御嶽山の事例から、頭部保護を優先しなければならないのが分かります。近くにヘルメットがあればいいのですが、そう都合よくはいかないでしょう。できるだけ姿勢を低くして丈夫な物の陰に隠れたり、腕で頭部を覆ったりすることが効果的です。
どのような姿勢が最も頭部の露出が少ないか、家族間で試して見ながら話し合ってはいかがでしょう。その姿勢が素早くとれるように訓練することも大切です。身体で覚えていることこそ、いざという時に役立つのです。

そして、ヘルメットを用意しておくことが重要です。地震発生とともにヘルメットを被ることは無理だとしても、揺れが一段落したらすぐに被りましょう。避難行動や救助活動をしている際の落下物から頭部を守る必要があります。大きな地震の際は余震が繰り返し襲ってくるからです。
外出時、ヘルメットを持ち歩く人はほとんどいないと思います。しかし御嶽山の事例のようにカバン類で頭を覆うことも可能です。身近にあるもので頭部を守る方法を普段から考えておきましょう。

気道熱傷による死者も

御嶽山における死因は気道熱傷によるものもありました。
気道熱傷とは、気道(呼吸の際、空気が通る管)を火傷してしまう状態を言います。高温の空気を吸い込んだりすると、気道の表面が熱せられ、場合によっては水ぶくれ(水疱)ができてしまいます。
こうなると呼吸がしづらくなり、放置すると呼吸困難になって窒息死に至ることもあります。
気道熱傷で注意すべき点は、熱傷を起こしたことにすぐには気付かないということです。御嶽山の場合も下山してきてから異状に気付き病院に搬送された人もいます。

火災時は呼吸器の保護が大切

高温の気体は火山ばかりではありません。
例えば火災が発生したとき、炎の大きさがそれほどではなくても部屋の空気が気道熱傷を起こすくらい高温になっていることがあります。
火災時は炎や煙だけでなく高温の空気に注意する必要があります。これは部屋の上部に溜まっていきますので、初期消火や避難の際はなるべく低い姿勢を保つことが重要です。

避難の際は濡れたタオルなどを口に当てた方が良いと言われています。有毒な煙を吸い込むことが減らせるとの理由ですが、最近の研究では、濡れたタオル程度では有毒成分を遮断することが難しいことが分かってきました。
しかし、無駄ではありません。高温状態の空気を冷やすことに効果があるのです。また、タオルがなかった場合、掌で口の周辺を覆うだけでも直接吸い込むより温度を下げられます。
身体に悪影響を及ぼす原因とその対処方法を知っていると冷静な行動ができます。

他所で起きた災害を対岸の火事とせず、そこから得られる教訓を自らの災害対策に役立てていきましょう。

執筆

永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー

消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。