地震・火災から身を守る(5)マンション火災の特徴

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マンションは燃えない?

ほとんどのマンションは、鉄筋コンクリート造などの耐火構造で作られています。文字どおり火に耐える構造ですから、マンションで火災のことを心配する必要がないのでしょうか?
いいえ、そのようなことはありません。耐火構造で作られているのは、壁、柱などの主要構造部だけです。




生活空間に面している内装材は、燃えにくい材質が選ばれているものの、一定時間炎にさらされていると燃えだしてしまいます。何よりも、家具類など生活用品のほとんどは可燃物ですよね。
ですから、何かのはずみで火が出た場合、木造家屋と同じように室内では火災が拡大してしまうのです。

延焼するところと止まるところ

もし、部屋中が火に包まれたとしても、それ以降の拡大が遅いことがマンションと木造家屋との大きな違いです。各戸を隔てている壁本体は耐火構造ですから、壁を炎が突き破ることはありません。
では、マンションで隣室に燃え広がることはないのでしょうか?
そうとも言えません。注意すべきは開口部、つまり――窓や出入り口です。風が通り抜けるようなところは炎や煙も容易に通り抜けます。
特に注意すべきは、窓から上階への延焼拡大です。炎が窓から噴き出すとその直上にある窓が炙られます。すると、窓際にあるカーテンなどの可燃物が燃え出し、上階への延焼を引き起こしてしまうのです。次の写真は、その様子を捉えたものです。

バルコニーからの延焼

マンションの南面や東面の開口部は、バルコニーになっている場合が多いと思います。一般的な窓と違い、バルコニーの突き出た部分が炎を開口部から遠ざけてくれるので、延焼はしづらくなる傾向にあります。
次の写真は、バルコニーの延焼阻止効果を実験している様子です。

一般的に、バルコニーの出幅が大きくなれば、延焼阻止効果は高くなると考えられています。しかし、それが確実に言えるのは、バルコニー内に何も可燃物がない場合に限られます。
実際のバルコニー内はどうでしょう。かなりのものが置かれていませんか。それらが可燃物であったら、下から立ち上がる炎に炙られて燃えだす危険が高いはずです。
ですからバルコニー内に不要なものを置かないことは、もちろんのこと、必要と思われるものでもなるべく少なくするのが鉄則です。
特に注意していただきたいのが、灯油の入ったポリタンクです。引火しやすく、一気に燃え広がり、バルコニーは火の海状態になってしまいます。そればかりか、排水管に燃えた灯油が流れ込むと下階へも延焼拡大する原因となってしまいます。
置きたい気持ちは分かりますが、控えましょう。

内廊下、内階段は煙に注意

炎だけでなく、煙の拡大にも注意が必要です。特に廊下や階段が壁で囲まれている構造――いわゆる内廊下や内階段では、煙が外に拡散せず、まるで煙突の中にいるような状態になります。
煙に含まれている一酸化炭素は、微量でも人間の中枢神経を麻痺させてしまうので、避難行動がとれなくなってしまう恐れがあります。少量の煙でも油断は禁物です。
さらに煙の垂直方向への拡大は極めて速く、人間の移動速度の10倍に達することさえあります。早めに避難行動を開始することや避難経路・方向を正しく選択することが大切です。
また、このような構造のマンションでは、煙や炎の拡大を防ぐ目的で防火戸が階段室の前後などに設けられているはずです。防火戸の前に物を置いたりするといざというときに閉鎖できなくなってしまいます。

防火戸の管理は、大変重要なことですから、管理会社に任せるだけでなく、居住者一人ひとりが普段から心掛けるようにしておきましょう。
次回以降は、火災が発生したときの適切な行動を考えていきます。

執筆

永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー

消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。