地震・火災から身を守る(6)正しい初期消火方法を覚えよう
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あくまでも「初期消火」
火災は加速度的に変化します。最初は手で叩けば消えてしまうような小さな炎から始まり、やがて天井に達するくらいの大きさになると、速度を増して拡大し、あっという間に部屋中が火の海になってしまいます。
そうなると、もう消防隊に任せるしか術はありません。
火災の初期の状態――炎が天井に達するまでに行なうのが初期消火です。これ以降ですと著しく危険性が増します。消火よりも避難を優先すべき状態なのです。
消火器を効果的に使う
一般的なマンションでは、消火器は廊下などに備え付けられているはずです。基準では歩行距離が20メートル以内になるように配置することになっていますから、注意すればすぐに目に付くでしょう。
しかし、火災のときは気が動転しています。普段どおりの注意力は期待できません。日頃からどこに消火器が置いてあるか意識しておくことが大切ですし、何よりも我が家に消火器を用意しておくことをお勧めします。
消火器の操作方法はシンプルです。
まず、燃えている場所の近くに消火器を運びます。このとき、あまり近づき過ぎないことが重要です。せいぜい4~5メートルくらいでしょうか。
次に黄色い安全栓を上に引き抜きます。そしてホースを手に取り、火元に向けます。炎が立ち上がっている根元あたりが目標です。
最後にレバーを強く握ると消火剤が放射されます。
もし、握力が弱く、レバーを握れないようでしたら、消火器を床に置いたままレバーを上から押し下げる方法もあります。
初期消火で注意しなければならないのは、炎の吹き返しです。消火剤が噴出した勢いで、炎が自分の方へ吹き寄せられてしまうのです。なるべく姿勢を低くして、熱気を吸わない様にすることがポイントです。

消火器の放射時間は?
消火器は15秒くらいしか放射できません。意外と短いと感じるかもしれませんが、これでも初期の状態の火災でしたら十分効果を発揮します。
重要なことは、正しく消火器を操作できることです。躊躇したり、的が定まらなかったりすると、燃えているものに消火剤が十分かかりません。
やはり訓練などで操作に慣れておくことが重要なのです。
油火災に水での消火は禁物
天ぷら鍋の掛け忘れなど、家庭内の油火災は数多く発生しています。ここで注意すべきは、油火災に対応した消火器を使用するということです。
一般的に普及している粉末タイプや強化液タイプがこれに該当します。詳しくは消火器に貼られているラベルを確認してください。どのような火災に適応するか記載されています。
油火災に水での消火は禁物です。燃えたぎった油の中に水を入れると、熱で一気に水蒸気に変わります。そのとき、ものすごい勢いで炎を吹き上げてしまうのです。
次の写真は、燃えている天ぷら鍋にコップ1杯分の水を注いだときのものです。5メートルくらいの高さまで炎が達しました。

特異な現象に注意
“フラッシュオーバー”という言葉を聞いたことがありますか。これは、主に部屋の上半分に溜まった高温の気体から出る輻射熱を受けて、室内の可燃物が一気に燃え出し、部屋中が火の海になる現象です。
次の写真は、その実験映像です。

つい先ほどまで大したことのない燃え方をしていたはずなのに、状況が一変してしまいます。
一度は部屋の外に逃げたものの、大切なものを持ち出そうとして部屋に戻り、炎に巻き込まれてしまう事例が後を絶ちません。ほとんどが、このフラッシュオーバー現象によるものなのです。
初期消火をする際も、この現象に常に注意しなければなりません。冒頭にあるように「炎が天井に達するまで」を活動の目安にしましょう。
次回は、119番通報と避難行動について考えていきます。

執筆
永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー
消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。