地震・火災から身を守る(7) 119番通報と避難
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通報は「迅速」と「正確」を両立させる
火災を発見したらできる限り早く通報しましょう。よく陥りがちなのは、自分ひとりで何とかしようとして、初期消火に失敗した後、かなり時間が経過してから通報するケースです。火災はかなり拡大してしまい、取り返しのつかない状況になる場合がほとんどです。
「初期消火が先か、通報が先か」と迷ってしまう人も少なくないでしょう。複数の人がいれば手分けして行うこともできますが、もし一人だけだとしたら……。
判断のポイントの一つに「発見時の炎の大きさ」があります。確実に初期消火ができると思える状況だったら、初期消火を優先して実行してください。無理だと思ったら、速やかに通報しましょう。
初期消火を優先する場合でも、黙々と消火器を操作するのではなく、出来るだけ大きな声で叫んで近くの人に火災を知らせることが大切です。
一方で、急ぐあまり、正しい通報が出来なくては意味がありません。では、正しい通報とはどのようなものなのでしょうか。
最低限必要な情報は、
「何が起きているのか」
と
「どこで」
になります。
「火事です。〇〇町△丁目×番地の〇〇マンション△△号室です」
普段でしたらこれくらいの会話は何の苦も無くできるでしょう。しかし、慌てているとうまくいきません。例えば――
「大変なの、早く来て」(これを繰り返すばかり)
「火事です。〇〇町××××です」(××××は住所ではなく、電話番号を繰り返している)
いざというときに備えて、電話機の近くに通報の要点を書いた紙を貼っておくのもいいでしょう。
通報内容は消防隊の活動に直結する
119番をダイアル(プッシュ)すると電話機の設置されている場所を管轄する消防機関の指令センターにつながります。
通報された情報は、出動する消防隊に無線回線などを通じて伝えられる仕組みになっています。ですから、出来るだけ正確で詳しい情報を通報すれば、消防隊の活動が効果的に行えるようになります。
例えば――
・できるだけ正確な場所、階数、部屋番号など・負傷者の有無、逃げ遅れた人の有無など
・火災の状況、延焼拡大しているのかどうか、など
「来たら分かるから早く来て」と、しきりに繰り返す通報者もいます。確かに、火災現場に行けばある程度のことが分かるでしょう。しかし、消防隊の活動には様々な手順があります。現場について状況を見てから準備するより、現場に向かう途中から準備が開始された方がはるかに効率的です。
119番通報は1回だけという決まりはありません。最初に必要最小限の情報を伝える通報をして、落ち着きを取り戻したら、さらに詳しい状況を伝える通報をするということも重要なことです。
部屋が停電してしまうと電話機が使えない?
室内で火災が発生した場合、電気配線などが燃えてショートを起こすと部屋のブレーカーが落ち、その部屋が停電状態になってしまいます。
このとき注意しなければならないのが、電話機の形式です。
旧式の黒電話は、電話回線を流れてくる電流で動くので、停電でも通話ができるようになっています。しかし、現在普及している電話の大部分は、コンセントから動作電力を供給するタイプなので、停電時は使えません。
もし、部屋の電話が使えなくなったら携帯電話を使用したり、隣家に通報を依頼するなどして臨機応変に対応しましょう。
避難の第1ステップ――出火室からの脱出
壁が耐火構造でつくられているマンションでは、木造家屋と比較して他区画へ延焼拡大する速度はかなり遅くなります。しかし、部屋の中だけに着目すれば、マンションでも木造家屋でも同じように燃えやすい家具などがあるので、悠長なことは言っていられません。初期消火がうまくできなかった場合などは、その部屋から一刻も早く脱出することが重要です。
一般的な部屋のレイアウトの場合、脱出する方向は2つあります。
まず玄関へ――これが最も自然な脱出ルートでしょう。玄関から脱出できたら扉を閉めましょう。廊下への煙の噴出や室内の燃焼を抑制する効果があります。
もし、玄関の近くで出火した場合など、玄関へ向かうことが困難だとしたらバルコニーへ逃げましょう。一般的なバルコニーは、他室との境界部分が「隔て板」と呼ばれているボードで仕切られています。この板の下部を蹴破って(ドアで開閉できる方式もある)隣室へ逃げることができるようになっています。
避難の第2ステップ――煙を考慮した避難方向
部屋から出て逃げる際、考慮しなければならないのが煙です。延焼拡大するよりもずっと速いスピードで、煙は出火室から拡散していきます。 下の図は、火災時に階段室を伝わる煙の濃度をシミュレーションしたものです。

水平方向へ広がるよりも上階へと多くの煙が流れていくのが分かります。さらにその拡散速度に注目してみると、水平方向へは秒速0.3~0.8メートルくらいですが、上方へは秒速3~5メートルに達します。
人間が階段を上っていく速度がおおよそ秒速0.5メートルであることを考えると、上方へは相当な速度で煙が流れていくということになります。これでは煙と競争しても勝ち目はありません。
やみくもに煙から逃げるのではなく、煙が伝わりやすいところ、伝わりにくいところを冷静に判断して、まず煙が伝わりにくいルートに向かって水平移動し、そこから地上へと逃げるようにしましょう。
こういった場面で冷静な行動がとれるよう、日頃からマンション内の構造、配置などを調べ、「こういった場合は、こうする」というように、頭の中でのシミュレーションを経験しておくことが大切です。

執筆
永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー
消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。