マンション防災探検(1) 建物構造
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まず、知ることからスタート
地震や火災などの備えを始める前に、重要なことが一つあります。
まず、自分のマンションの防災的な特徴を知ることです。マンションは設計段階から災害を想定して建物構造、設備等に様々な工夫が施されています。それらは、すべてのマンションに共通するようなこともあれば、それぞれ全く違っている場合もあります。
ですから、一般的な防災知識だけに頼るのではなく、自分のマンションの特徴を調べ、それに合った備えを進めることが重要なのです。
マンションの構造や設備の主要な部分は、購入時のパンフレットや管理規約集などに記載されている場合が多いので、それらを見直してみることも一つの方法です。また、詳細な部分は管理会社に問い合わせてみるのもいいでしょう。
しかし、それだけで終わらせてしまっては不十分です。こうして得た知識をもとに、実際にマンション内を歩いてみてはいかがでしょうか。つまり「マンション防災探検」です。 実物を見ることで良く理解できるはずですし、課題解決のヒントが発見できるかもしれません。
地震を想定してチェック
地震時に適切に対応するためには、揺れによって損傷しやすい部分や特殊な働きをする部分を知っておくことが大切です。代表的なものを見てみましょう。
エキスパンションジョイント
ある程度の規模になると建物を一体構造とせず、複数に分割して建て、連結する方式が採られる場合があります。
この連結部分に設けられるのが、エキスパンションジョイントです。
この部分は、地震などの揺れにより建物同士が干渉しないよう、ある程度可動するようになっています。揺れが大きい場合は、可動範囲を超えてしまい、エキスパンションジョイントが損傷してしまう場合もあります。しかし、そうすることで建物本体への悪影響を減少させる役割も担っているのです。
したがって、大きな地震に襲われたとき、エキスパンションジョイントが壊れてその部分が通行できなくなることを想定しなくてはいけません。通行を規制するための器具(パイロン、ロープなど)をあらかじめ準備しておく必要があるのです。

また、損傷が軽微な場合は通行も可能ですが、少しでも段差が生じると車椅子や台車式の運搬器具は、通れなくなってしまう可能性があります。こうした場合、合板などを用意しておくと段差解消の応急措置に役立ちます。
エキスパンションジョイント(免震構造)
一般的な免震構造の建物は、地下ピットの中に免震装置が設置され、その上に建物が乗せられた状態になっています。
地盤が揺れても建物と干渉しないようにある程度の間隔が設けられていますので、建物の出入り口部分には必ずエキスパンションジョイントが設けられています。

免震構造の特性上、地震が発生すると建物と地面との動きにはズレが生じますので、両者を結ぶエキスパンションジョイントは、スライドしてズレを解消する役割を持っています。そのために、周囲にはある程度の隙間が設けられ、植栽などでカバーされていることが多いのですが、注意点があります。
・子供が隙間に潜りこんで遊ぶことがあり、地震が発生すると、動いたエキスパンションジョイントに挟まれる危険性がある。
このような点は、居住者に十分周知されていない場合もあるので、標識を設置して注意を促すなど対策を考えておく必要があります。
広いガラス板が使われているところ
エントランスなどには美観や採光の関係上、広いガラス板が使われている場合が多いと思います。
居住空間を豊かに演出してくれる部材なのですが、地震の時は注意が必要です。免震構造になっている場合やガラス枠に緩衝措置が講じられているような場合を除き、地震の揺れによって破損する可能性が大きいからです。

災害時には、エントランスや集会室などを集合場所にしたり、一時的な避難施設に代用したりするケースが多いと思いますが、ガラスが破損した場合は、そうした用途に使えなくなるでしょう。代替場所を話し合っておく必要があります。
また、破損したガラスがエントランスなどに散乱していると通行に支障を来します。飛散防止フィルムを貼っておくとある態度の飛散は防げますし、万が一割れた場合の処置方法を考えておくなど、事前対策は欠かせません。
外装材
マンションの外壁はどうなっているでしょうか。
塗装や化粧材(タイル類)などで仕上げてあると思います。これらが経年劣化すると地震の揺れで剥離落下しやすくなりますので、注意が必要です。これらの被害を未然に防ぐためには、定期的に点検することや修繕計画に組み込んでおくことが重要です。
なお、地震が発生したときは、最初の揺れ(本震)で剥離しかけて、余震で落下するというようなケースも見られますので、不安定な状態が発見されたら近づかないように注意を促す措置が必要になってきます。

建物外周部
近年建てられたマンションは、基礎部分にも十分配慮し、揺れによる建物の傾きや沈下などが極力起こらないように設計されています。
しかし、周辺の地盤まで同じような強度を保つことは難しく、段差が生じたりすることがあります。
特に液状化の危険性の高いところでは、こうしたことが起こりやすく、極端な場合、建物からの出入りができなくなることもあります。
段差に土のうを積んだり、合板で仮設通路を作ったりする必要が出てきますので、必要な資材をあらかじめ用意しておくことが大切です。
次回はエレベーターと階段について見ていきましょう。

執筆
永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー
消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。