マンション防災探検(2) エレベーターと階段
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重要な垂直動線
マンション内の移動手段として、エレベーターが重要な役割を果たしていることは言うまでもありません。しかし、地震や火災が発生したとき、使用できなくなってしまう事態を想像したことがありますか。
そこで、普段何気なく使用しているエレベーターのしくみを確認するとともに、災害時、これに代わる垂直動線――階段を新しい視点で見てみましょう。
エレベーターの防災機能
地震または火災が発生した場合、通常の運転方法とは違い、安全を優先した運転方法に切り替わります。それが、地震時管制運転と火災時管制運転です。
地震時管制運転
エレベーターシステムに組み込まれている地震センサーが揺れを感知すると、通常運転を中止し、最寄り階に停止するシステムです。おおむね次のような動きになります。

平成21年9月以降に設置されたエレベーターについては、この方式の管制運転装置の設置が義務付けられていますが、それ以前のものは、PP波センサーがなく、SS波を検知してから管制運転に切り替える方式のものもあり、管制運転に切り替わるタイミングが遅くなる場合があります。
どちらの方式であっても、地震時管制運転機能が付いていれば自動で最寄り階に停止するので、直ちに降りて、エレベーター保守会社の点検を受けるまでは、使用しないことが重要です。
なお、こうした機能が備えられているかはっきりしない場合もあるかもしれません。そこで、エレベーター使用中に自ら揺れを感じたときの操作法があるので、覚えておくとマンション以外のエレベーターを利用したときに役立ちます。

火災時管制運転
火災感知器が火災を感知した場合、または管理室で切り替え操作をした場合、通常運転を中止し避難階に停止するシステムです。おおむね次のような動きになります。

避難階とは、直接地上へ通ずる出入口のある階をいい、一般的には1階になります。しかし、傾斜地に建てられたマンションなどは、異なる場合もありますから確認しておきましょう。
地震時と同じように停止後直ちに降りて、エレベーター保守会社の点検を受けるまでは、使用しないようにします。
非常用エレベーターとは
高さが31mを超える建物の場合、非常用エレベーターの設置が義務付けられています。エレベーターホールにはその旨の表示があり、写真のような呼び戻しスイッチが設けられているので、注意して見るとすぐに分かると思います。

しかし、「非常用」という言葉から、このエレベーターの使用方法を誤解してしまう例が少なくありません。
確かに非常時に使用するのですが、本来の使用目的は、居住者の避難のためではなく、消防隊等が消火・救助活動のために使用するものなのです。
火災の状況などを確認しながら特殊な操作方法で運転を行うものなので、一般の人の使用はできません。このエレベーターを避難用に使用することは、考えないようにしましょう。
なお、一部の高層ビルでは、非常用エレベーターを歩行困難者の避難用に使用する取り組みが行われているケースがあります。しかし、一定の性能を有した防火区画や専従のエレベーター操作員が必要なことなど、安全のための諸条件をクリアした場合に限られていますので、間違えないようにしましょう。
閉じ込められたら
地震時などは管制運転により特定の階でドアが開き、降りられるようになっていますが、ごくまれに階の途中で停止してしまうことがあります。いわゆる「閉じ込め」の発生です。
こうなった場合、慌てずに連絡用インターホンを通じて救助を要請します。操作パネルに受話器型のマークの付いたボタンがありますので、これを操作すると外部のオペレーターと通話することができます。エレベーター内の状況などを簡潔に説明しましょう。
エレベーター内は通気が確保されていますので、窒息することはありません。むしろ気が動転したりすることで体調を崩す原因になりますので、落ち着いて救助を待つことが大切です。
なお、大規模地震の場合は、救助までの時間がかかるケースも珍しくありません。エレベーター内にスペースがあれば、簡易トイレや飲料水などをセットにして置いておくと、長時間になっても体調を維持することができますので、検討してはいかがでしょうか。
階段をチェック
エレベーターが使えなくなったとき、その代役となるものが階段です。しかし、エレベーターに慣れてしまうと、階段の昇り降りの問題点を忘れてしまう可能性があります。
昇りが大変
これは言うまでもないことなので、誰もが頭の中では理解していると思います。しかし、ただ昇るだけではなく、例えば飲料水を運ぶなど、かなりの重量物を持って昇らねばならないのです。実際に体験してみないとその大変さは理解できないかもしれません。買い物帰りなどに、試してみてはいかがでしょうか。
また、防災訓練などで物資を協力して運び上げる訓練をしてみる必要もあります。リレー方式にするなど、様々な方法を試して、一番効率的な方法を探してみるのもいいでしょう。
幅が狭い
普通に歩行するだけなら支障ありませんが、大きなものを持った状態で通行しようとすると、その狭さに気付くはずです。
特に問題になりそうなのが、負傷者を搬送する場合です。一般的な担架に乗せて搬送しようとすると、左右で担架を持つ人がかなり窮屈になるでしょうし、場合によっては踊り場を曲がれないかもしれません。備え付けの担架が階段を無理なく通行できるか試してみる必要があります。
もし、困難であったなら、コンパクトなタイプや布担架などに切り替えるといいでしょう。
次回はライフラインの一つ、給排水設備について見ていきます。

執筆
永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー
消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。