マンション防災探検(3) 給排水設備
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重要なライフライン
飲料水は生活維持に欠かせないものですから、マンションの給水設備の特徴を理解しておくことは、災害時の水対策を考えるうえで大変重要になってきます。一方で忘れがちになってしまうのが、排水設備です。しかし、生活するためにはトイレをはじめとする汚水・雑排水が円滑に処理できないと大きな問題になってくるのです。今回は両設備の特徴を確かめるとともに、災害時の対策を考えていきます。
様々な給水方式
マンションの給水設備は様々な方式がありますが、大別すると次の2つになります。
直結方式
水道本管から給水管を直接分岐して各住戸に給水する方式です。
低層式のマンションであれば水道管の圧力だけで送水することが可能ですが、大抵の場合は、ポンプで増圧して高層階へ送るようにしています。
この方式では受水槽を設けるスペースが不要となるので、中規模のマンションでは代表的な給水方式になっています。
しかし、一方では受水槽がないということが地震時ではデメリットにもなってきます。断水が発生した場合、マンション内で使える水がほとんど残っていないという事態になるからです。
この方式のマンションでは、ペットボトルなどで飲料水を備蓄しておくことが必須となってきます。
受水槽方式
敷地内で一度受水槽に入れてから各住戸に給水する方式です。
受水槽から出た水をポンプで圧送して各住戸に給水する場合と、屋上などに設けた高置水槽に送り、重力で各住戸に給水する場合があります。前者を加圧給水式、後者を高置水槽式と分類することもあります。
受水槽方式では、断水時に受水槽内に残った水を利用できるというメリットがあります。しかし、普段どおりに使えるというわけではなく、次のような問題点もあるので注意が必要です。
・水を多量に使用している時間帯に断水が発生すると、受水槽内に残っている水も少なくなる。
・断水後は受水槽内に水が停滞したままになるので、飲料用に使用できる期間も限られてくる。
・受水槽の基礎や受水槽本体の耐震性が低いと、漏水が発生する場合がある。
東日本大震災では、上記のようなことが多数発生したので、最近では給水ポンプ用の非常電源装置や緊急時専用の給水栓を設けたり、受水槽周辺を耐震補強したりする取り組みが行われるようになりました。さらには、こうしたハード面だけではなく、緊急時の給水のルールづくりや居住者同士の協力体制づくりが望まれます。

排水経路に注意
トイレや台所から排出された水は、横引管と呼ばれるパイプで共用配管(竪管)へと集められ、下水道などへと放流されます。
地震時にまず問題となるのが、横引管です。文字どおり、床と下階の天井との間のスペースを横方向に配置されている管なのですが、地震の揺れで接合部分が損傷したりする場合があります。こうなったとき、排水したらどうなるでしょう。損傷部分から漏れ出した汚水等が下階に損害を与えてしまうのは明白です。
したがって大きな揺れに襲われたときは、排水系統の状況が確認できるまで、安易に水を流さないことです。また、1階の場合は、下階へ漏水する心配はないのかもしれませんが、壊れた配管に流そうとすると詰まりの原因になり、後になって大規模な改修工事が必要となる可能性もあります。やはり自分勝手な判断による行動は慎みたいものです。
様々なトイレ対策
こうなってきたとき、必要なのがトイレの代替措置です。大きく分けて2つの方法があります。
応急的な共用トイレの設置
代表的なのが排水系統のマンホールを外し、テントで囲われた簡易的なトイレユニットを置く方式、いわゆるマンホールトイレです。
この方式で重要な点が、設置する場所(マンホール)をあらかじめ確認しておくことです。マンション内には様々なマンホールが設けられています。電気設備や雨水管などのマンホールもあります。いざという時迷わないよう、防災訓練などで設置体験をしておくことが必要ですし、種別が表示されているマンホールが多いので、敷地内を散歩がてらに確認してみるのもいいでしょう。

また、トイレというものは使用するとどうしても汚れてくるものです。たとえ応急的なものとはいえ、被災したことで疲弊している人にとって、あまりにも汚いトイレの使用はかなりの精神的負担になります。震災時は清掃業者に頼むことも難しいので、掃除当番のルールなどを事前に話し合っておく必要があります。
各住戸用の簡易トイレ
住戸内のトイレにセットして使うトイレキットが市販されています。
代表的なものは、吸水シート等が入っているビニール袋を便器に被せるタイプです。簡単に使用できるので便利ですが、使用後のキットは可燃ごみとして処理するようになるので、一時保管用のビニール袋も用意しておく必要があります。
洗うことも制限される
生活の中では様々な「洗いもの」があるはずです。衣類、食器類、そして自分自身の身体、髪、歯など多種多様なものが、震災時には制限されてしまう可能性があるのです。食器にラップ類を被せて使用することで食器洗浄を省略する工夫も必要ですし、ウェットティッシュや水を使用しない洗髪、歯磨き用品なども用意しておく必要があるでしょう。
重要なことは、普段の生活を支えている給水と排水をトータルで考え、これらの災害対策をバランスよく進めておくことです。

執筆
永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー
消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。