災害活動実践編(2) 負傷者の救出と搬送

 配信

ドアが開かないときは

ドアとドア枠の隙間に余裕がないと、地震の揺れで枠が変形したときドアが開放できなくなります。
こうなった場合でも、変形の程度が大きくなければ、バールを使ってこじ開けることができます。ドアと枠の隙間がすべてなくなってしまうわけではなく、どこかに隙間が残っていることが多いので、そこにバールの先端を差し込み、てこの原理を利用してこじ開けるのです。



下図のようにドアノブがある側(蝶番とは反対側)の隙間を狙います。このときしっかりと差し込まないと、バールの先端が外れて作業する人がけがをしてしまうことがあります。

もしドアが施錠されており、解錠することができないようでしたら、バールだけでこじ開けるのは困難です。無理をせず、玄関からではなく、隣の住戸からバルコニー伝いに進入する方法を選択してみましょう。

家具の下敷きになっているときは

負傷者を覆っているものを除去する必要があります。
しかし、地震の揺れで複数の家具類が複雑に噛み合ってしまっていることが多く、無理やり動かそうとするとかえって危険な状態になるので、順序良く作業を行う必要があります。
大きな家具で簡単に動かすことができない場合は、バールをてこ代わりにしたり、油圧ジャッキを使うなどして隙間をあけ、負傷者を引きずり出す方法が効果的でしょう。

ガラスの破片が散乱している場合は、出来るだけ早めに除去しておきます。そうしないと作業者が破片で負傷してしまうからです。夢中で活動していると危険に疎くなってしまう場合がありますので、意識して危険性を把握することが重要です。

また、救出活動中でも余震が襲ってきます。人数に余裕がある場合は、安全を確認することに専念する人を決めておきます。

クラッシュ症候群に注意

長時間にわたって身体が挟まれていた人は、注意が必要です。挟まれたことにより筋肉の細胞が壊死を起こしますが、身体が解放されたと同時にこうした細胞からカリウムなどの成分が多量に血液中に流れ出し、意識障害や心停止を起こす症状をクラッシュ症候群といいます。

救出された直後は元気でも、時間経過とともに意識を失い、死に至るケースもあるので、こうしたケースに該当する人は速やかに医師の手当てを受ける必要があります。

負傷者の搬送

担架に乗せて搬送するのが基本ですが、通路や階段が狭い場合は、一般的な担架を使うと身動きが取れなくなる場合があります。

こうした場合に便利なのが布担架です。布地にベルト製の持ち手を付けたものですが、小回りが利くので、狭い部屋の中でもある程度自由に移動することができます。

搬送する際に最も注意すべき点は、負傷者に衝撃を与えないということです。特に頸椎(首回り)に負荷が加えられると重大な後遺症につながりかねません。担架に乗せるときや下ろすときに細心の注意が必要です。

そのほか様々な注意点があるので、次の動画を参考にしてください。

また、担架も布担架もない場合は、近距離であれば毛布を使うこともできます。

訓練が重要

防災活動は、理屈だけ分かっていても、実際に経験してみないといざというとき役に立たない場合が多いものです。特に負傷者の重量を経験してみないと実感がわかないはずです。

防災訓練のときは、負傷者搬送のメニューを加えることをお勧めします。ただ、生身の人間を負傷者役にすると、訓練中の落下事故などが危惧されます。

そこで、次のようにペットボトルを利用して簡単に訓練用人形を作るアイデアも公開されています。ぜひトライしてみてください。

執筆

永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー

消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。