災害活動実践編(3) 物資の管理と搬送

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物資の分配は公平性と融通性を効かせて

管理組合の備蓄品の中で、居住者から最も期待されるのが、水や非常食であると思います。
しかし、どの管理組合でもそれほど潤沢に備蓄しているわけではないでしょう。限られた物資の分配は、公平性を保つことが大原則になります。不公平感は、協力体制の最大の敵です。つまらぬところから争いが生じ、災害が復旧してもわだかまりが残る住みにくいマンションになってしまいます。
その場の一時しのぎではなく、長期的な視点に立って公平性というルールを守っていかなければならないのです。

一方、被害の程度という観点から見ると必ずしも各住戸がすべて同じわけではありません。階や棟ごとに大きな差が出てくるのも珍しくありません。必要とするものの内容や量に差が生じてくるのです。
こうした状況で、杓子定規に「同じように分配」と唱えてもかえって不公平感を募らせるばかりでしょう。
必要としていない住戸の分を必要としている住戸に回すような融通性も必要ではないかと思います。

しかし、実際に実行するとなるとためらってしまうのも事実です。それは、「非常時における公平性と融通性」についてほとんどの人が経験もしていなければ、普段から考えていないからです。

そこで、時々、そういったことをテーマにした話し合いの場を設けてはいかがでしょうか。必ずしも結論が出なくてもいいのです。話し合うことにより課題が共有できれば、いざというときの意思の疎通にかなり役立つはずです。

分配手段を明示する

分配は、住戸ごとに指定場所に取りに来てもらうのが一般的です。こうした場合は、ある程度時間を指定した方がいいでしょう。受け渡しには物資を管理する担当者を配置しなければならないので、「いつでもどうぞ」にしてしまうと担当者の負担が大きくなりすぎるからです。

このとき、時間帯、分配するものの内容や量を明示しておきましょう。状況によっては掲示板に掲出するだけでなく、戸別に知らせる必要がある場合もあります。担当者が1軒ずつ回るのは大変ですからあらかじめ連絡網を作っておくことをお勧めします。

高層階への搬送は協力して

物資の受け取り方法にも、不公平感が出てくる可能性があります。物資の受け渡しは1階または屋外で行うのがほとんどだと思いますが、高層階に居住する人にとっては、エレベーターが使えなくなると、この方法はかなりの負担になってくるのではないでしょうか。
ある程度は我慢してもらう必要もありますが、高齢者世帯などの場合は、体力的に見て不可能な場合もあります。

こういうときこそ共助の力を発揮しなければならないのではないでしょうか。協力して搬送する方法には2つの方式があります。

リレー方式

下から順に物資を上げていく方法です。自分の階の分を残し、上階分を上げていくので、上に行くにしたがって負担が小さくなる傾向にあります。労力が不公平にならないよう、上階の人は下階の分の協力をするなどの調整が必要です。

拠点階方式

概ね5階ずつ(1階と2階は別)グループを作り、その中心階を拠点階に指定します。全体で協力して各拠点階まで物資を上げておき、それ以降は、各住戸が拠点階まで取りに行くという方式です。
拠点階までは最大でも2階分移動すればいいだけなので、各住戸の負担はかなり軽減されます。

どの方式も一長一短があります。大切なのは、訓練などで実際に試してみるということです。そうすれば課題も明白になり、本番でどのように協力しなければならないか、重要な点を全員が共有することができるからです。

物資の保管状況を把握する

普段でしたら備蓄品の管理は、管理会社にお任せのマンションが多いのではないでしょうか。
しかし、非常時には管理会社の担当者が駆けつけることも困難な状況になるでしょう。居住者が協力して物資の管理、分配、搬送などを行わなければならなくなります。
ただでさえ混乱している状況下で、慣れないことをするのはかなりの負担になります。でも、あてもなく助けを待っているだけでは生き抜くことはできません。

だからこそ、普段から物資の管理に積極的に関わっていただきたいのです。どのようなものが備蓄されているのか、その使用期限はどうなっているのかを理解しておくことが大切です。また、発電機のような機材は定期的にメンテナンスが必要ですし、操作の仕方も理解しなければなりません。
管理組合の役員が中心となって、全居住者が分担して物資の維持管理に関われるような仕組みづくりがのぞまれます。

執筆

永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー

消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。