マンション防災探検(6) 情報設備

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情報は災害行動の重要ファクター

情報化社会と言われて久しい現代ですが、これほどまでに生活に密着してくると、その恩恵を受けられなくなった時の落差は計り知れないものになってきます。

しかし、大きな災害が発生した場合、正しい行動の道標は、やはり情報になるでしょう。どのようにして正確で最新の情報を得られるかが生死を分ける場合だってあるのです。
情報が得られるということのメリットはそれだけではありません。不安を解消し冷静な行動につながるのです。

様々な情報機器

テレビ

一般的なテレビ受信システムは、アンテナで電波を受信しテレビのチューナーで映像・音声に変換しています。マンションの場合は、住戸ごとにアンテナを設けず、ひとつのアンテナで受信した信号をブースターで増幅し、各住戸に分配する共同受信システム(共聴システム)をとっている場合がほとんどでしょう。

アンテナから電波を受信しないケーブルテレビ方式の場合も基本的には似たような系統になっています。

災害という視点からこれらのシステムを見た場合、注意する点は「電源がどうなっているか」ということです。ブースターなど電源が必要な機器は、停電が発生すると機能を発揮せず、したがってテレビの受信が不可能になってしまいます。各住戸でバッテリー駆動式のテレビを用意したり非常コンセントを設けたりしても、肝心のブースターに電力が供給されないと意味がないのです。

そこで、ブースターなどに対する非常電源の状態をチェックしておく必要があります。(マンション防災探検(4)電気設備を参考にしてください)
非常電源がない場合は、共同受信システムは機能しませんので、個別にアンテナ付テレビなどを用意する必要があります。

インターネット

情報の多様性、双方向性などの特徴を有するインターネットは、情報社会の主役の座をテレビ放送から奪ったのかもしれません。
しかし、マンション内におけるインターネットシステムは、テレビ同様、ルーターやハブなど様々な機器が電源を必要としています。災害時に有効に機能を発揮させるためには非常電源は欠かせません。

電話

119番や110番などの非常通報をはじめ、災害時は重要な情報がやりとりされるのが電話回線です。

ここでもネックになるのが電源です。最も単純な系統の場合、電話回線から電話器駆動用の電力が供給されるので、旧式の黒電話であれば停電時でも通話が可能です。

しかし一定規模以上のマンションになるとMDFと呼ばれる端子盤を設ける必要が出てきますし、インターネット回線を利用するIP電話の場合はさらに専用の機器が必要となってきます。これらの多くが電源を必要としているのです。

したがって自分のマンションがどのような方式になっているか、電源を必要としている機器はあるのか、そのための非常電源は備えられているか、といったことを把握しておく必要があります。

また、意外と盲点になるのが自宅内の電話機本体です。コードレスホン全盛の今日ですが、こういった機器の多くは電源がないと使えません。
いくらマンションの共用設備が万全でも肝心の手元の機器が使えないのでは意味がありません。
最近では親機だけなら停電時でも使用できるタイプの電話機も市販されていますので、状況に応じ検討してみてはいかがでしょうか。

インターホンの諸機能

来訪者や管理室との通話など日常生活で多用されるインターホンですが、様々な場面を想定した安全機能が付加されているものが増えてきました。

例えば火災感知器やガス漏れ警報器と連動して火災発生・ガス漏れ発生などを音声で知らせたりする機能です。

また、「火災」とか「緊急」とかが表示されたボタンがあるものもあります。文字どおり火災発生時や緊急時に使用するものですが、機種やマンション毎の設定によっては、管理室と通話するようになっていたり、信号を送るだけだったりと様態はまちまちなので、個別に確認しておくとよいでしょう。
よく誤解されるケースが、火災ボタンを押すと消防署へ自動で通報されると思われることです。もちろんそのようなことはありません。その場にいる人が119番通報する必要があるのです。インターホンの機能だけに頼らないようにしましょう。

新しいタイプのインターホンでは、緊急地震速報の配信サービスと連動しているものもあります。
緊急地震速報については、「地震・火災から身を守る(1)」で詳しく説明していますので今回は省略しますが、こういった配信サービスが一般向けの緊急地震速報と違うのは、気象庁の「高度利用者(電気・ガス等のインフラや鉄道事業者等)向け」速報を活用している点です。
これは、速報発表基準としている地震動が一般向けよりも低く設定されており、鋭敏な地震センサーのようなものではないでしょうか。
こういった機能を持っている場合は、有効に活用できるよう、改めて地震発生時の行動について家族全員で話し合ってみてはいかがでしょうか。

災害時の情報のあり方

災害時は情報量が極度に減少する一方、その信憑性も低下してきます。そうしたことから場合によっては、複数の情報を比較して判断することが求められてきます。
そこで、情報のルートは特定のものに偏ることなく常に複数のルート・手段を確保するように努めなければなりません。豊富な情報に取り囲まれている日常からは想像もつかないような努力が強いられるのです。

だからこそ、普段から情報機器・設備の特徴を理解し、災害時に有効に活用できるようなバックアップ体制を築き上げておく必要があるのです。

それには個々に奮闘するのではなく、マンション全体で情報の入手、発信、共有ができるようなしくみを構築する方がはるかに効果的ではないでしょうか。

こうしたことは一朝一夕で実現できるものではありません。情報システムの改善と合わせ、人と人のつながりで育て上げていく必要があるのです。

次回から3回に分けて消防設備を見ていきます。

執筆

永山 政広(ながやま まさひろ)
NPO法人ライフ・コンセプト100 アドバイザー

消防官として30年間にわたり災害現場での活動、火災原因調査などに携わり、2013年からNPO法人ライフ・コンセプト100のアドバイザーとして、セミナーや防災マニュアルづくりなど、マンション防災の第一線で活躍。